医療機関を運営する上で、避けて通れないのが医療廃棄物の処理です。これらは人の健康や環境に重大な影響を及ぼす可能性があるため、法律で厳格な処理方法が定められています。しかし、その分類の複雑さや専門性の高さから、「どの廃棄物が何に該当するのか」「どのように処理すれば法令違反にならないのか」といった疑問をお持ちの方も少なくないでしょう。
本記事では、医療廃棄物の基本的な定義から、種類別の具体的な処理フロー、そして信頼できる処理業者の選び方まで、実務に直結する情報を網羅的に解説します。この記事を通じて、貴院の適正な廃棄物処理体制の構築をサポートします。
医療廃棄物とは?基本的な定義を解説
医療廃棄物とは、病院、診療所(歯科医院を含む)、衛生検査所、介護老人保健施設、介護医療院、助産所、動物の診療施設及び試験研究機関(医学、歯学、薬学、獣医学に係るもの)といった医療関係機関等から、医療行為に伴って排出される廃棄物の総称です。これには、治療や検査、手術などで使用された注射針、ガーゼ、点滴バッグだけでなく、関連する研究活動から出る廃棄物も含まれます。これらは、単なる事業系のゴミとは異なり、感染症を引き起こす病原体を含む可能性があるため、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)に基づき、特別な管理が求められます。
産業廃棄物との違いは?
事業活動から生じる廃棄物は「産業廃棄物」と呼ばれますが、医療廃棄物はこの中でも特に厳格な管理が必要とされるカテゴリーに位置づけられます。廃棄物処理法では、医療機関から排出される廃棄物も、その種類に応じて「産業廃棄物」と「一般廃棄物」に分類されます。例えば、注射針やレントゲン定着液は産業廃棄物、血液が付着していない紙くずなどは一般廃棄物となります。しかし、医療機関から出るという特性上、感染のリスクを考慮し、産業廃棄物の中でも特に危険性が高い「特別管理産業廃棄物」や「特別管理一般廃棄物」として扱われるものが多くあります。
| 区分 | 医療廃棄物 | 一般的な産業廃棄物 |
|---|---|---|
| 主な排出元 | 病院、クリニック、歯科医院、介護施設など | 工場、建設現場、オフィスなど |
| 具体例 | 注射針、血液が付着したガーゼ、点滴セットなど | 金属くず、廃プラスチック、木くずなど |
| 管理基準 | 感染予防のため、厳格な分別・専用容器・法令遵守が必要 | 種類ごとの処理方法に従って管理 |
| 法的扱い | 主に特別管理産業廃棄物または産業廃棄物として分類 | 産業廃棄物として分類される |
排出事業者に課せられる責任と関連法規
医療廃棄物を排出する医療機関には、「排出事業者責任」が課せられます。これは、排出した廃棄物が最終的に処分されるまで、適正に処理される責任を負うという考え方です。この責任は、たとえ処理を専門業者に委託した場合でも免除されることはありません。万が一、委託した業者が不法投棄などの不適正な処理を行った場合、排出事業者である医療機関も罰則の対象となる可能性があります。この排出事業者責任を全うするためには、主に以下の法律を遵守する必要があります。
- 廃棄物処理法:廃棄物の定義、分類、処理基準、委託基準、マニフェスト制度などを定めた基本となる法律です。
- 医療法:医療機関内の清潔保持や院内感染防止の観点から、廃棄物の適切な管理体制を求めています。
- 感染症法:一類感染症や二類感染症など、特定の感染症の治療や検査に使用された廃棄物の取り扱いについて定めています。
医療廃棄物の種類と分類

医療廃棄物は、感染リスクの有無によって大きく「感染性廃棄物」と「非感染性廃棄物」に分けられます。この分類を正しく理解し、適切に分別することが、適正処理の第一歩となります。見た目では判断が難しい場合も多いため、環境省が示すマニュアルに基づいた客観的な基準で判断する必要があります。
感染性廃棄物の判断基準
ある廃棄物が「感染性廃棄物」に該当するかどうかは、以下の3つの観点から総合的に判断されます。
- 形状:血液や体液そのもの、臓器・組織などの病理廃棄物、血液などが付着した鋭利なもの(注射針など)、病原微生物の検査に用いたものなどが該当します。
- 排出場所:感染症病床、結核病床、手術室、緊急外来室、検査室など、特定の場所から排出されたものは、感染リスクが高いと見なされます。
- 感染症の種類:感染症法で定められた一類〜五類感染症や、新型インフルエンザなどの治療・検査に使用されたものは、感染性廃棄物として扱われます。
これらのいずれかに該当すれば、感染性廃棄物として特別な処理が求められます。
血液や体液が付着した「感染性廃棄物」
感染性廃棄物の中でも、特に代表的なのが血液や体液が付着したものです。これらは、人に感染症をうつす可能性のある病原体を含んでいるリスクがあるため、厳重な管理が必要です。
| 廃棄物の種類 | 具体例 | 容器の色(推奨) |
|---|---|---|
| 液状・泥状のもの | 血液、体液、漿液、手術に伴う臓器など | 赤色 |
| 固形状のもの | 血液が付着したガーゼ、脱脂綿、実験動物の死体など | 橙色(オレンジ色) |
これらの廃棄物は、漏洩しないように密閉性の高い容器や、丈夫なプラスチック袋を二重にして保管することが推奨されています。容器には、中身が感染性廃棄物であることを示す「バイオハザードマーク」を必ず表示します。
注射針などの「鋭利なもの」
使用済みの注射針やメス、割れたガラスアンプルなど、鋭利な形状のものは、たとえ血液が付着していなくても、作業員が怪我をする「針刺し事故」のリスクがあるため、感染性廃棄物と同等の特別な扱いが必要です。
- 具体例:注射針、縫合針、メス、割れたガラス製品など
- 容器の色(推奨):黄色
これらの廃棄物は、作業員が安全に取り扱えるよう、プラスチック製などの貫通しない堅牢な専用容器に保管・廃棄しなければなりません。安易にビニール袋などに入れると、袋を突き破って重大な事故につながる恐れがあります。
ガーゼや紙おむつなどの「非感染性廃棄物」
医療行為に伴って排出されるものであっても、感染性の病原体を含むリスクが低いと判断されるものは「非感染性廃棄物」に分類されます。
- 具体例:血液が付着していない包帯やガーゼ、紙おむつ(特定の感染症を除く)、医療機器の包装材、期限切れの医薬品(有害物質を含まないもの)など
- 法的扱い:産業廃棄物または一般廃棄物
ただし、非感染性廃棄物であっても、外見上で感染性廃棄物と区別がつきにくい場合があります。そのため、処理業者とのトラブルを避け、適正な処理を確保するために、非感染性であることを明記したラベルを貼るなどの工夫が推奨されます。
【手順解説】医療廃棄物の正しい処理フロー

医療廃棄物の処理は、院内での分別から始まり、専門業者による最終処分に至るまで、一連の流れが法律で厳密に定められています。各ステップで求められる対応を正しく理解し、実行することが重要です。
手順1:種類に応じた分別と容器の準備
処理フローの最初のステップは、発生現場での正確な分別です。前述した「感染性(液状・固形状・鋭利なもの)」と「非感染性」の分類に基づき、廃棄物を適切に分けます。そして、それぞれの性質に応じた専用の容器を用意します。
- 液状・泥状のもの:密閉できるプラスチック製や金属製の容器。
- 固形状のもの:丈夫なプラスチック袋(二重にするのが望ましい)や段ボール容器。
- 鋭利なもの:耐貫通性のある堅牢なプラスチック製容器。
容器の材質や形状を誤ると、運搬中に中身が漏洩したり、容器が破損したりするリスクが高まるため、注意が必要です。
手順2:バイオハザードマークによる明確な表示
分別した廃棄物を入れた容器には、誰が見ても中身の危険性がわかるように、バイオハザードマークを表示することが強く推奨されています。このマークは、廃棄物の性状に応じて3色に分かれており、正しく使い分けることで、処理に関わる全ての作業員の安全を確保します。
| マークの色 | 対象となる廃棄物 | 意味 |
|---|---|---|
| 赤色 | 液状・泥状のもの(血液など) | 液体や柔らかい廃棄物による汚染注意 |
| 橙色 | 固形状のもの(血液が付着したガーゼなど) | 固形物による汚染注意 |
| 黄色 | 鋭利なもの(注射針など) | 突き刺しによる怪我・感染注意 |
この表示により、収集運搬業者や中間処理業者は、適切な取り扱い方法を瞬時に判断できます。
手順3:法令を遵守した院内保管
収集運搬業者に引き渡すまでの間、医療廃棄物は院内の特定の場所で一時的に保管します。この保管場所は、廃棄物処理法の基準を満たしている必要があります。
- 関係者以外の立ち入りを制限できる構造であること(施錠など)。
- 「感染性廃棄物保管場所」である旨と、取り扱い上の注意事項を明記した表示を掲示すること(縦横60cm以上)。
- 周囲に囲いを設け、ネズミや害虫の発生を防ぐ措置を講じること。
- 腐敗の恐れがあるものは、冷蔵保管するなど衛生面に配慮すること。
保管期間は極力短くすることが原則です。
手順4:許可を持つ専門業者による収集運搬
院内で適切に分別・保管された医療廃棄物は、都道府県知事などから「特別管理産業廃棄物収集運搬業」の許可を得た専門業者に委託して運搬します。委託する際は、必ず許可証の写しを確認し、委託する廃棄物の種類が許可品目に含まれているか、有効期限が切れていないかなどをチェックする必要があります。無許可の業者に委託した場合、排出事業者である医療機関も厳しく罰せられます。
手順5:中間処理から最終処分まで
収集運搬された医療廃棄物は、中間処理施設へと運ばれます。中間処理とは、焼却、溶融、滅菌などの方法により、廃棄物の感染性をなくし、安全化・減容化する工程です。
- 焼却・溶融:高温で燃やすことで、病原体を完全に死滅させ、廃棄物のかさを大幅に減らします。
- 滅菌:高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)などの方法で、病原体を無害化します。
これらの処理を経て無害化された廃棄物は、最終処分場(管理型埋立処分場など)で埋め立てられるか、再生利用されます。
マニフェスト制度の重要性と運用方法
医療廃棄物の処理を業者に委託する際、排出事業者の責任を果たす上で極めて重要な役割を担うのが「マニフェスト(産業廃棄物管理票)」制度です。これは、廃棄物の流れを可視化し、適正処理を確認するための仕組みです。
なぜマニフェスト(管理票)が必要なのか?
マニフェストは、排出事業者が委託した医療廃棄物が、どの業者によって運ばれ、どこで、どのように処理されたかを記録・証明するための伝票です。排出事業者は、このマニフェストを交付し、各処理工程が完了するたびに業者から返送される伝票を確認・保管する義務があります。これにより、委託した廃棄物が最終処分まで責任をもって処理されたことを追跡・管理でき、不法投棄などの不正処理を防ぐことができます。
紙マニフェストと電子マニフェストの違い
| 項目 | 紙マニフェスト | 電子マニフェスト |
|---|---|---|
| 運用方法 | 7枚綴りの複写式伝票を業者間で手渡しで回付 | PCやスマートフォンで情報を登録・報告 |
| 報告義務 | 排出事業者は年に1度、都道府県への交付状況報告が必要 | 不要(情報処理センターが代行) |
| 保管義務 | 5年間の伝票原本の保管が必要 | 不要(情報処理センターがサーバー上で保管) |
| メリット | 導入が容易 | 事務処理の効率化、法令遵守の徹底、情報の透明性向上 |
| デメリット | 記入・回付・保管の手間、紛失リスク | 導入に初期設定が必要、関係業者全員の加入が必要 |
近年では、事務負担の軽減やコンプライアンス強化の観点から、電子マニフェストの利用が推奨されています。
マニフェストの交付から保管までの流れ
マニフェストの運用は、廃棄物の引き渡しから始まります。
- 交付:排出事業者は、廃棄物を収集運搬業者に引き渡す際に、必要事項を記入したマニフェストを交付します。
- 運搬終了報告:収集運搬業者は、中間処理施設への運搬が完了したら、排出事業者に運搬終了を報告する伝票(B2票)を返送します。
- 処分終了報告:中間処理業者は、焼却などの処理が完了したら、排出事業者に処分終了を報告する伝票(D票)を返送します。
- 最終処分終了報告:最終処分が完了したら、中間処理業者経由で最終処分終了を報告する伝票(E票)が返送されます。
- 確認・保管:排出事業者は、返送された全ての伝票の内容を確認し、契約通りに処理されたことをチェックした後、5年間保管します。
この一連の流れを確実に管理することが、排出事業者責任を果たす上で不可欠です。
信頼できる医療廃棄物処理業者の選び方

医療廃棄物の処理は、専門的な知識と許可を持つ信頼できるパートナー(処理業者)に委託することが成功の鍵となります。業者選びを誤ると、法令違反や思わぬトラブルに巻き込まれるリスクがあります。以下のポイントを参考に、慎重に選定しましょう。
「特別管理産業廃棄物処分業許可」の確認
最も重要なのが、委託先が適切な許可を得ているかどうかの確認です。医療廃棄物の多くは「特別管理産業廃棄物」に該当するため、業者には以下の許可が必要です。
- 収集運搬を委託する場合:「特別管理産業廃棄物収集運搬業許可」
- 処分を委託する場合:「特別管理産業廃棄物処分業許可」
許可証の原本または写しを提示してもらい、許可品目に「感染性産業廃棄物」が含まれているか、自院の所在地が許可されたエリア内か、有効期限は切れていないか、といった点を必ず確認してください。
契約書で確認すべき必須項目
業者との契約は、必ず書面で行わなければなりません。口頭での契約は法律で認められていません。契約書には、廃棄物処理法で定められた以下の事項が漏れなく記載されているかを確認しましょう。
- 委託する廃棄物の種類と数量
- 運搬の最終目的地、処分の場所・方法、処理能力
- 契約期間
- 委託料金
- 業者の許可内容
- 業務終了時の報告に関する事項
- 契約解除時の廃棄物の取り扱い
これらの項目を明確にすることで、後々のトラブルを未然に防ぎます。
適正な処理料金の目安と見積もりのポイント
医療廃棄物の処理料金は、廃棄物の量や種類、回収頻度、地域などによって変動します。一般的な料金体系としては、容器1つあたりで計算される「容器単位」、または重量で計算される「重量単位」があります。安さだけを基準に業者を選ぶのは非常に危険です。極端に安い料金を提示する業者は、必要な処理工程を省いて不法投棄するなど、不適正な処理を行うリスクが考えられます。複数の業者から見積もりを取り、料金の内訳(収集運搬費、処分費、容器代など)を比較検討し、適正な価格で信頼できるサービスを提供している業者を選びましょう。
実績とサポート体制の確認
長年にわたり、地域の医療機関からの委託を多数受けている業者は、それだけ信頼性が高いと言えます。公式サイトなどで過去の実績を確認したり、同業の医療機関に評判を聞いたりするのも有効です。また、廃棄物の分別方法について相談に乗ってくれるか、法改正があった場合に情報提供してくれるかなど、日々の業務をサポートしてくれる体制が整っているかも重要な選定基準となります。万が一の事故やトラブル発生時に、迅速かつ誠実に対応してくれるかどうかも見極めたいポイントです。
まとめ
医療廃棄物の処理は、医療機関の社会的責任と安全管理の根幹をなす重要な業務です。本記事で解説した通り、廃棄物の正しい分類から分別、保管、そして信頼できる業者への委託とマニフェストによる管理まで、一連のフローを法令に則って確実に実行することが求められます。複雑に感じる部分もあるかもしれませんが、一つ一つの手順を正しく理解し、院内でのルールを徹底することで、感染や環境汚染のリスクを最小限に抑え、患者さんと職員、そして地域社会の安全を守ることにつながります。適切な廃棄物処理体制を構築し、安心して医療に専念できる環境を維持してください。