医療機関において保管場所に頭を悩ませるものの一つに、過去のレントゲンフィルムがあります。法律で定められた保存期間を過ぎたフィルムを整理したいけれど、個人情報が含まれているため捨て方が分からず、倉庫に積み上げられたままというケースも少なくありません。この記事では、レントゲンフィルムを安全かつ低コストで廃棄するための具体的な方法と、信頼できる業者の選び方について解説します。読み終わる頃には、手元のフィルムをどのように処理すべきか明確になり、すぐに片付けの一歩を踏み出せるようになります。
レントゲンフィルムはどう廃棄すべきか?

レントゲンフィルムの処分を検討する際、まず理解しておくべきなのは「単なるゴミとして捨てるのか」「資源として売却するのか」という選択肢の違いです。実はレントゲンフィルムには銀が含まれている場合が多く、適切な業者に依頼することで処分費用がかかるどころか、逆にお金を受け取れる可能性があります。ここでは主な廃棄方法とそれぞれの特徴について解説します。
| 廃棄方法 | コスト面の特徴 | 主な対象フィルム | 手続きの煩雑さ |
| 有価物買取 | 収益になる(無料回収含む) | 銀を含むアナログフィルム | 比較的簡単 |
| 産業廃棄物処理 | 費用がかかる | 銀を含まないドライフィルム等 | マニフェスト等が必要 |
| 自治体ゴミ回収 | 利用不可 | なし | 対応不可 |
有価物として買取に出す
まず推奨される方法は、専門業者に有価物として買い取ってもらうことです。昔ながらの現像液を使用するタイプのアナログフィルムには、感光材料として「銀」が含まれています。リサイクル業者はフィルムを焼却または化学処理してこの銀を抽出し、再利用することで利益を得ています。そのため、医療機関側は処分費用を払う必要がなく、銀の含有量や相場によっては買取金額を受け取ることが可能です。コスト削減だけでなく資源リサイクルにも貢献できるため、まずはこの方法が可能か検討することをお勧めします。
産業廃棄物として処分する
近年普及しているサーマルフィルムやドライフィルムと呼ばれるタイプには、銀がほとんど、あるいは全く含まれていない場合があります。このように資源としての価値がないフィルムは、有価物としての買取が難しいため、産業廃棄物として処理する必要があります。この場合は、廃棄物の収集運搬および処分を許可された業者に依頼し、所定の処分費用を支払って引き取ってもらいます。適正な処理を証明するために、マニフェスト(産業廃棄物管理票)の発行と管理が必須となります。
自治体のゴミ回収は利用不可
注意が必要なのは、事業活動に伴って出たレントゲンフィルムは、たとえ少量であっても家庭ゴミのように自治体のゴミ回収には出せないという点です。これらは「廃プラスチック類」などの産業廃棄物に該当するため、事業系一般廃棄物としても扱われません。誤って一般のゴミ集積所に出してしまうと不法投棄とみなされ、廃棄物処理法違反として罰則の対象になる可能性があります。必ず専門の許可業者あるいはリサイクル業者を通して適正に処分してください。
廃棄時に知っておくべき保存期間とは?
フィルムを廃棄する前に必ず確認しなければならないのが、法律で定められた保存期間です。期間内であるにもかかわらず廃棄してしまうと、後々監査が入った際や医療訴訟などが起きた際に重大な問題となります。ここでは法律上の義務と実務上の推奨期間について整理します。
| 根拠となる法律・規則 | 保存義務期間 | 起算点 |
| 保険医療機関及び保険医療養担当規則 | 3年間 | 完結の日から |
| 医療法(病院の場合) | 2年間 | 診療終了日から |
| 医師法(診療録) | 5年間 | 診療完結の日から |
法律で定められた3年間の義務
レントゲンフィルムやX線写真の保存期間について、保険診療を行う医療機関が遵守すべき主なルールは「保険医療機関及び保険医療養担当規則」にあります。この規則の第9条では、診療録(カルテ)以外の帳簿書類やその他の記録に関して、その完結の日から3年間の保存を義務付けています。レントゲンフィルムはこの「その他の記録」に含まれると解釈されるのが一般的であり、最低でも3年間は保管しておかなければなりません。
実務上の推奨は5年以上
法律上は3年で廃棄可能とも読めますが、実務的な観点からは5年以上の保存が強く推奨されます。その理由は、医師法第24条において診療録(カルテ)の保存期間が5年と定められているため、それとセットで参照されることの多い画像データも同じ期間保存しておくのが合理的だからです。また、患者の状態変化を過去に遡って確認する必要が生じた場合、3年で破棄してしまっていると十分な医療を提供できない可能性があります。現場の混乱を避けるためにも、カルテに合わせて5年ルールを適用している医療機関が多く見られます。
最終撮影日を基準に計算する
保存期間を計算する際のスタート地点、つまり起算日を間違えないことも重要です。保存期間は「撮影した日」からではなく、その診療行為が「完結した日」から数え始めます。たとえば、慢性疾患で通院している患者の場合、治療が継続している限りは保存期間のカウントが始まらないと解釈されることもあります。廃棄リストを作成する際は、単に撮影日から3年や5年を足すのではなく、その患者の最終来院日や治療終了日を確認し、余裕を持った期間設定で判断することが安全です。
安心して依頼できる業者の選び方は?

レントゲンフィルムには、患者の氏名、ID、生年月日、撮影日、そして身体内部の情報という極めて機微な個人情報が含まれています。単に「買取価格が高い」「処分費が安い」という理由だけで業者を選ぶと、不法投棄や情報流出といった取り返しのつかないトラブルに巻き込まれるリスクがあります。信頼できるパートナーを見極めるための基準を確認しましょう。
個人情報保護体制の確認
業者選定で最も重視すべきなのは、個人情報の取り扱いに関する信頼性です。業者のウェブサイトを確認し、プライバシーマーク(Pマーク)やISO27001(ISMS)といった第三者認証を取得しているかをチェックしてください。これらの認証は、個人情報を適切に管理する体制が整っている企業であることの証明になります。また、ウェブサイト上に個人情報保護方針(プライバシーポリシー)が掲示されており、レントゲンフィルムの取り扱いについて具体的な記述があるかどうかも判断材料になります。
証明書発行の有無
適正に処理が行われたことを後から証明できるよう、各種証明書を発行してくれる業者を選ぶことが大切です。具体的には、フィルムを物理的に再生不可能な状態にしたことを示す「溶解証明書」や「焼却証明書」、あるいは「廃棄証明書」などが該当します。口頭で「適切に処理します」と言うだけでなく、処理完了後に書面で報告を行うプロセスが確立されている業者であれば、安心して任せることができます。契約前にどのような完了報告がもらえるのかを確認しておくと良いでしょう。
買取価格の透明性
有価物として買い取ってもらう場合、買取価格の算出根拠が明確かどうかもポイントです。良心的な業者は、その時点での銀の市場相場(銀建値)に基づき、フィルム1kgあたりに含まれる銀の量から精錬コストを差し引いた金額を提示してくれます。一方、重量を正確に測らなかったり、相場の説明もなく一律の低価格で引き取ろうとしたりする業者には注意が必要です。見積もりの段階で、単価の設定や計算方法について納得できる説明があるかを確認してください。
依頼から完了までの流れはどうなるか?
実際に業者に依頼してから、レントゲンフィルムが手元を離れて処理が完了するまでの一般的なプロセスを紹介します。流れを把握しておくことで、院内での準備やスケジュール調整がスムーズに進みます。
| ステップ | 実施内容 | 主な作業者 |
| 1.問い合わせ | 電話やメールでフィルムの種類や量(箱数など)を伝える | 依頼主 |
| 2.見積もり | 概算または訪問査定で金額と条件を提示される | 業者 |
| 3.回収・搬出 | 指定日に業者が回収に来る(郵送の場合もあり) | 業者・依頼主 |
| 4.処理・報告 | 工場での処理後、証明書と明細が届く | 業者 |
見積もりと契約の締結
まずは業者に問い合わせを行い、保管しているフィルムのおおよその量や種類(アナログかデジタルか)を伝えます。段ボールの箱数や保管棚のサイズなどを伝えると、スムーズに概算見積もりがもらえます。量が多い場合や搬出経路が複雑な場合は、事前の現地調査に来てくれることもあります。提示された金額や条件、回収日時、個人情報の扱いに関する契約内容に納得できたら、正式に申し込みを行います。この段階で、機密保持契約書(NDA)を取り交わすことができる業者だとさらに安心です。
回収と運搬の実施
決められた日時に業者が訪問し、フィルムの回収作業を行います。多くの専門業者では、フィルムが封筒やカルテに入ったままの状態でも回収してくれるため、事前にフィルムだけを抜き出す手間が不要な場合があります。搬出作業は業者のスタッフが行うことが一般的で、重量のあるフィルムを自分たちで運ぶ必要はありません。回収されたフィルムは、飛散や流出防止の措置がとられたトラックで処理施設へと運搬されます。少量の場合は、指定の箱に詰めて宅配便で送る「郵送回収」を利用できる業者もあります。
処理と完了報告の受領
回収されたフィルムは処理施設に運ばれ、分別作業を経て焼却や溶解処理が行われます。アナログフィルムの場合はここで銀が抽出され、リサイクルされます。全ての処理が完了した後、業者から「処理完了報告書」や「溶解証明書」、買取の場合は「買取明細書」が送られてきます。これらの書類を確認し、買取金額が指定口座に振り込まれたことを確認して、一連の取引は完了となります。証明書は廃棄の記録として、保存期間の規定に従って院内で保管しておきましょう。
トラブルを防ぐための注意点は?

最後に、レントゲンフィルムの廃棄において発生しがちなトラブルや、事前に防ぐべきリスクについて解説します。適正な処理を行うことは、医療機関としての社会的責任を守ることにもつながります。
マニフェストの取り扱い
産業廃棄物として処分する場合、「マニフェスト(産業廃棄物管理票)」の発行は法律上の義務です。マニフェストは、廃棄物が排出されてから最終処分されるまでの流れを記録・管理するためのもので、排出事業者が交付し、処理終了後に写しを受け取って5年間保存する必要があります。一方、有価物として売却(買取)する場合は、廃棄物ではなく商品取引となるため、マニフェストの発行は原則不要です。自分の依頼内容が「廃棄」なのか「売却」なのかを明確にし、必要な書類が揃っているかを確認することが重要です。
個人情報の分離作業
フィルムが個人の氏名入り封筒に入っている場合や、カルテと混在している場合、それらをどう処理するか事前の取り決めが大切です。業者によっては「フィルムのみ対応」としており、紙ゴミ(封筒やカルテ)の混入を断られるケースがあります。その場合、院内で膨大な分別作業が発生してしまいます。手間を省くためには、封筒や紙類ごと丸ごと引き受けて、自社工場内で分別・溶解処理してくれる業者を選ぶのが賢明です。分別不十分なまま引き渡すと、リサイクル工程で異物となりトラブルの原因になることもあります。
悪質な回収業者への警戒
残念ながら、無許可で回収を行う業者や、回収後に不法投棄をする悪質な業者も存在します。「無料で回収します」とアナウンスしながら巡回しているトラックや、所在地が不明確な業者には注意が必要です。もし回収されたフィルムが山林などに不法投棄されれば、元の持ち主である医療機関が責任を問われることになり、病院名が記載されたフィルムが見つかれば社会的信用は失墜します。必ず会社の所在地、古物商許可番号、産業廃棄物収集運搬業許可証などを確認し、身元の確かな業者に依頼してください。
まとめ
本記事の要点を振り返ります。
- レントゲンフィルムは銀を含む「有価物」として買取可能な場合が多く、コスト削減とリサイクルを両立できる。
- 保存期間は法律上3年だが、実務やカルテとの整合性を考慮して5年以上の保管が推奨される。
- 業者選びでは、買取価格だけでなくプライバシーマーク取得や溶解証明書発行などの「個人情報保護体制」を最優先にする。
レントゲンフィルムの適切な廃棄は、スペースの確保だけでなく、情報漏洩リスクの低減や環境保全にもつながる重要な業務です。まずは信頼できる専門業者に見積もりを依頼し、現在の保管状況に合わせた最適なプランを相談することから始めてみてはいかがでしょうか。